移植領域
肝移植について
肝移植とは患者さんの病期により悪くなった肝臓を取り除き、臓器提供者からの新しい肝臓と取り換える手術のことです。移植手術以外の方法では治療法がない、重度の肝障害のある患者さんに対して行われる治療です。生命の危機に瀕している患者さんの救命を目的として行われます。
肝移植は、脳死肝移植と生体部分肝移植の2つに分けられます。脳死肝移植は、脳死下臓器提供者(脳死ドナー)から善意によって提供された肝臓を移植します。一方で、生体部分肝移植は健康な成人の親族(生体ドナー)から肝臓の一部を取り出し、患者さん(レシピエント)の悪くなった肝臓と入れ替える手術をいいます(右図)。海外では、脳死肝移植が多く実施されていますが、わが国では脳死ドナーとなる方が極めて少なく、これまで生体肝移植が主に行われてきた歴史があります。わが国では、1964年に実施された国内初の肝移植術以降、2020年までに生体肝移植術9760例、脳死肝移植658例が行われてきました(日本肝移植学会・肝移植症例登録報告より)。
脳死肝移植は、日本では実績のある限られた施設でしか行うことが認められていません。福島県立医科大学は、この脳死肝移植実施施設に認定されています。また、生体部分肝移植も行っています。
生体肝移植の概要
適応疾患
主な対象疾患として下記の疾患が挙げられます。
- ウイルス性肝炎による肝硬変(B型肝炎、C型肝炎)
- 劇症肝炎
- アルコール性肝疾患
- 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
- 自己免疫性肝疾患
- 自己免疫性肝炎
- 原発性胆汁性肝硬変(PBC)
- 原発性硬化性胆管炎(PSC)
- 新生児硬化性胆管炎
- 先天性・遺伝性肝疾患
- 胆道閉鎖症
- カロリ病(先天性多発肝内胆管拡張症)
- アラジール症候群
- オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症(OTC欠損症)
- ヘマクロマトーシス
- ウィルソン病
- α-1抗トリプシン欠乏症
- グリコーゲン貯蔵病(I型、III型、IV):
- チロシン血症
- バッド・キアリ症候群
- 肝悪性腫瘍
- 肝細胞癌(末期肝硬変に伴うもの)
福島県立医科大学における肝移植の実績
当院では、小児および成人の肝移植を1995年から計74症例の肝移植を行っております(生体肝移植;71例、脳死肝移植;3例)。(2022年4月現在)
下図が示す通り原疾患別の内訳では、胆道閉鎖症が14例、劇症肝炎が12例、原発性硬化性胆管炎、肝細胞癌がそれぞれ10例、C型肝硬変、アルコール性肝硬変がそれぞれ5例、非アルコール性脂肪性肝炎が4例となっています。
2015年以降に福島医大で肝移植を行った患者20例の生存率は、100%です(2022年4月現在)。
当科における肝移植症例 原疾患の内訳※数は症例数
※その他の疾患の内訳
- アラジール症候群 2例
- その他の肝硬変 2例
- 自己免疫性肝炎 1例
- 原発性胆汁性肝硬変 1例
- 肝血管肉腫 1例
- OTC欠損症 1例
膵臓移植について
膵臓移植は1型糖尿病に対して行われ、腎不全に陥った重症な糖尿病患者さんには「膵腎同時移植」と「腎移植後膵臓移植」が行われ、腎機能が良い患者さんには「膵単独移植」が行われます。
1型糖尿病の原因は膵臓のβ細胞が自己の免疫によって破壊されることでインスリンが分泌されなくなる病態です。長期的な高血糖状態が続くことで、全身の微小血管が障害を受け腎障害や網膜障害、神経障害が引き起こされます。進行した腎障害を伴う1型糖尿病患者においてはインスリン投与や血糖測定、透析治療が必要不可欠となります。健康な膵臓・腎臓が移植されることによりインスリン治療や血糖測定、透析治療が不要になり、生活の質の向上が期待できます。
福島県立医科大学における膵移植の実績
当科では2004年から2021年の期間に計7例の膵腎同時移植を行って参りました。
全ての移植患者さんにおいて良好な膵機能が維持されています。
膵島移植について
膵島移植は膵臓からインスリン分泌がなくなってしまったインスリン依存1型糖尿病に対する根治的な治療のひとつです。
膵島移植の概要
膵臓よりインスリンを分泌する膵島を分離し、患者さんの門脈に輸注する組織移植であり、臓器移植である膵臓移植と比較して低侵襲であるという優位性があります。
わが国では、これまで先進医療Bとして実施されてきましたが、2020年4月より「同種膵島移植術」として保険収載されました。福島医大では、南東北・北関東ブロックの地域を担当し、これまでに1例の移植を経験しております。現在、保険診療として膵島移植を実施するために施設基準をクリアするために準備を進めております。
移植コーディネーター
臓器移植は、移植を受けるレシピエントだけでなく、家族や周囲のみんなの協力は支援が必要です。また、わかりにくい医学用語や説明、検査や診察のスケジュールなど、とても多くのことを行う必要があります。
そこで、患者さんやご家族に少しでも不安や負担を軽くするよう、移植コーディネーターという専門職の看護師が、お手伝いさせていただきます。いろいろな悩み事相談から、担当医や医療チームとの連絡を引き受けたりしますので、お気軽にご相談ください。
- レシピエント移植コーディネーター
- 國分希美(こくぶん のぞみ)、荒井奈津希(あらい なつき)
- 組織移植コーディネーター
- 高済恵美子(たかすみ えみこ)
連絡先: 電話番号:024-547-1254