診療案内

肝臓領域

肝細胞がん

肝細胞がんは原発性肝がんのひとつで、肝臓の中に存在する肝細胞ががん化したがんです。
肝細胞がんを発症する多くの患者さんは、肝臓に基礎疾患を持っています。基礎疾患としては、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの感染によってウイルス性肝疾患が多いですが、近年の抗ウイルス治療の普及・改善、新規感染者の減少によって、ウイルス性肝疾患を背景にした患者さんは減少傾向にあります。その一方で、お酒をあまり飲まず、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを患っている方に起こるメタボリックシンドロームの肝臓病、非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLDナッフルディー)を持つ患者さんが増えています。
肝細胞がんに特徴的な症状はありません。多くの場合、自覚症状はなく、健診、検診や他の病気の定期チェックの際に偶然指摘されることがあります。基礎疾患の肝機能障害に伴う倦怠感、腹水、黄疸や、腫瘍による疼痛を訴えて来院される方もいます。
肝細胞がんの検査は、大きく2つに分けられます。1つは、肝細胞がんの状態を評価するための画像検査になります。腹部超音波検査(エコー)、CT検査、MRI検査が代表です。もう1つは、がんを発症した背景となる肝臓の機能を評価するための検査になります。血液検査、ICG検査、アシアロシンチグラフィなどが代表的な検査です。
肝細胞がんの治療法は、外科的治療(手術)、ラジオ波焼灼術を代表とする局所治療、肝動脈化学塞栓療法、薬物治療(分子標的薬)があります。治療法を選択するために、肝細胞がんの状態と肝機能(肝予備能)との評価結果を参考にして決定します1)。肝臓は生命維持に必要不可欠な臓器のひとつで、肝細胞がんの治療のために肝機能(残肝機能)に負担がかかり過ぎてしまうと肝不全という重篤な病態に陥ってしまいます。
当科では、治療のうち外科的治療(手術)を担当しています。外科的治療は肝切除と肝移植になります。肝移植は別項で説明していますので、そちらをご参照ください。肝切除は、肝細胞がんを含めて肝臓を切除することで根治を目指す治療であり、局所治療としては最も有効性の高い治療とされています。肝切除術には解剖上の区域に沿って切除する系統的切除と、区域にこだわらない非系統的手術がありますが、肝細胞がんでは腫瘍が存在する区域に微小転移を来すことが稀にあるので、比較的大きな肝細胞がんでは、肝機能が良ければ系統的切除が選択されることが多いです。

肝細胞癌の治療アルゴリズム

(日本肝臓学会 肝癌診療ガイドライン2017年版より)

  • *1:肝切除の場合は肝障害度による評価を推奨
  • *2:腫瘍数1個なら①切除、②焼灼
  • *3:Child-Pugh分類Aのみ
  • *4:患者年齢は65歳以下
  • *5:遠隔転移や脈管侵襲なし、腫瘍径5cm以内かつ腫瘍数5個以内かつAFP500ng/mL以下

開腹手術の皮膚切開の例

腹腔鏡下手術の皮膚切開の例

肝内胆管がん

肝内胆管がんは原発性肝がんのひとつで、肝臓で生成された胆汁(消化液のひとつ)を肝臓から十二指腸まで運ぶ胆管のうち、肝臓の中にある胆管ががん化したものです。原発性肝がんのひとつではありますが、前述の肝細胞がんと比べると頻度は低いです。
肝細胞がん同様に、ウイルス性肝疾患を背景に発症することがありますが、肝内結石症や原発性硬化性胆管炎との関係があるとされています。肝臓に疾患のない、正常肝にも発がんする場合もあります。
肝細胞がん同様に、肝内胆管がんに特徴的な症状はありません。胆汁の流れが停滞する(胆汁うっ滞)ことによって、発熱、腹痛、黄疸が出現することで診断に至ることがあります。
検査は、肝細胞がん同様ですが、胆管内へのがんの進展を検査するために胆管造影検査(内視鏡で行う場合、内視鏡的逆行性胆管造影検査ERCPと呼ばれます)を行います。
肝内胆管がんに対する治療法で最も有効なのは手術です。肝内胆管がんが肝臓の表面に近い場所にある場合(末梢型)は、肝切除術が行われます。がんの進展状況に合わせて、開腹手術と腹腔鏡手術が選択されます。肝内胆管がんが肝臓の中央に近い場所にある場合(肝門部型、肝門進展型)は、肝切除に加えて、肝外胆管の切除も必要となります。

転移性肝がん

転移性肝がんは、肝臓以外の臓器にできたがん(原発巣)からがん細胞が血液の流れに乗って肝臓に到達して、肝臓に生着を来した(転移)がんです。原発巣は大腸がん、胃がん、膵臓がん、食道がん、肺がん、乳がんなど様々です。
転移性肝がんに特徴的な症状はありません。多くの患者さんには原発巣の治療前や治療後フォロー中に肝腫瘍を指摘されることで診断されます。ごく稀に、原発巣の診断前に、健診などのきっかけで行われた腹部画像検査で転移性肝がんを指摘される場合があります。転移性肝がんの初期には症状はなく、進行した後に腹痛、背部痛、黄疸、倦怠感、腹水、食欲低下などの症状が出現します。
転移性肝がんに対する治療法を決定するためには、原発巣がどこか、原発巣が根治切除できるか、肝臓の転移の状況はどうか、肝臓以外の臓器に転移がないか、肝臓機能は維持されているか、などを評価する必要があります。
転移性肝がんの患者さんの多くが薬物治療を必要としますが、状況によっては転移性肝がんを外科的切除(肝切除)することが有効な場合があります。大腸がんはその代表です。以前は、大腸がんで肝転移をきたしたときの予後は良くありませんでしたが、最近では、薬物治療と肝切除を組み合わせた治療によって長期生存や根治が得られる例が見られるようになってきました。

原発性肝癌

肝細胞癌:肝細胞が癌化
肝内胆菅癌:肝内の胆菅細胞が癌化

転移性肝癌

肝臓以外の臓器の癌が肝臓に流れてきた発育したもの

肝切除術について

日本の全国手術データベースであるNational Clinical Database(NCD)2)の統計によると、肝切除(区域切除以上)の手術に関連した合併症は、約9%におこり、手術関連死亡率は3.7%となっています。消化器外科の手術の中でも、肝切除術は合併症が多く、死亡の危険性がある手術のひとつです。
肝切除術には、従来の開腹手術と腹腔鏡あるいはロボット支援下手術が行われています。いずれも手術の難易度が高く、合併症率も高いことから、専門施設で手術を受けるほうが良いとされています。傷が小さく美容上優れている腹腔鏡手術は、術後在院日数も短く低侵襲手術とも呼ばれ、消化器外科のいろいろな手術に応用されています。肝切除術では、腹腔鏡下手術が2010年から、ロボット支援下手術は2022年から保険適用になりました。この腹腔鏡下肝切除やロボット支援下肝切除術はまだ限られた施設のみで行われています。

何がすごい!福島県立医科大学 肝胆膵・移植外科

  • 当科は肝移植術から、低侵襲手術まで、高難度な手術を何でも行うことができる施設です。
  • より安全な肝切除術を提供するために、当科では、日本肝胆膵外科学会で認定された高度技能指導医・専門医が中心となって実施しています。腹腔鏡手術では日本内視鏡外科学会の技術認定医が中心となっています。
  • 2016年以降、当科でも腹腔鏡下手術の症例数が増えてきており(2021年12月までに185例)、複数回の手術や巨大腫瘍でなければ、腹腔鏡の手術を第一選択としており、肝切除の約8割は、腹腔鏡を使って行っております。
  • 腹腔鏡下肝切除の中でも、区域切除以上の大きな肝切除を行っている施設は、全国的にもまだ少ないですが、当科では積極的に行っています。
  • 肝移植術から得られる技術を応用した、高度な医療を提供しています。下大静脈内腫瘍栓摘出や小動脈血管吻合も日常の手術として行っており、多くの経験があります。

出典

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